文化と文明

人間にとっての本当の幸福ってなんだろう。

そんなことを考えたことはありませんか?
私は哲学者でもなんでもないけれど、デザイン、空間の仕事をしていると、こういったことをよく考える。

本当に良いデザインや空間は、何かの形で幸福を生むものだと思う。
そして、私たちは、幸福になるために便利を追求してきた。たくさんの便利なものが生まれ、その中で生きている。そして次は、裕福になるために、さらにまだまだ次々と文明を競ってきた。そのために、どんなに文化が失われようとも。アイデンティティがなくなろうとも。

そうしてできた都市の景色をふと見ると、すっかり無機質で同じ顔ばかりの街になってしまった。東京で生まれ育った私にとって、今はこの無機質な街がホームタウンだ。

ヨーロッパの都市は、景観条例が厳しい。例えばミラノは、1階に入るテナントのデザインも上の階の住民全員がチェックするらしい。パリの街は、観光客が多いのに、石畳はスーツケースを転がすのにはあまりに適していない。しかし、未だに修繕する時でさえ石畳だ。ようはとっても不便だ。
彼らはどんなに不便でも文化を守りながら文明を生む。修繕にも途方もない費用をかける。こういった考え方は欧州ではどこの街でもある。文化を守るということは自分たちのルーツを守り、自分たち自身を大切にすることでもある。

フランスに住んでいる知人が「日本は街はどんどん新しい建物が建ち変わっていくのに、人々のマインドは高度経済成長の時から変わらない、もうそんな時代は終わっているのにね。フランスは違う。街は変わらないけど、人々のマインドはどんどん変わり続けている。」と言った。


私たちは、いまも裕福になるのために文明を競い、とうとう安価を競い、豊かになれると思っているのかもしれない。急成長している中国の感覚と大きくは変わらないのではないかと思う。それどころか、このままだとマインドまで抜かれていく可能性さえある。

先進国である日本は、いまからでも自分たちの文化やアイデンティティを見つめ、「本当の幸福」「本当の豊かさ」をもう1度考えられないか。


便利、安心、安全のための文明を競い続けるのはそろそろやめ時ではないかと思う。私たちの文明を生むパワーを大量生産することに向けていくのではなく、「独自の文化」「繊細な感性」「想像力」を加え、丁寧に固有化していくことが、ニューノーマル時代の豊かさにつながるのではないかと思う。

COVID-19を機に、欧米の人々のマインドは変わり、同時に社会も急速に変わる。私達もこれを機に本当の豊かさを見つめ、変わることができるだろうか?そんなことを考えながら、人が「本当に幸福だ。」と思えることのできるデザインや空間を創造する仕事に関わっていけたら幸せだと思う。

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