コロナ禍により、モノやヒトとのタッチレス化が進んでいる。しかし、接触することは、気分調節から社会的絆に至るまで、私たちの生活のさまざまな面で重要な役割を果たしている。
3月、「フランスの厚生大臣OlivierVéranは、ウイルスの蔓延を抑えるため、握手、キス、抱擁をやめるよう国民に呼びかけた。」というニュースを見た時、ハグやキスが挨拶のラテンの国らしいなと思った。日本なら、挨拶で握手することもないから、こういった呼びかけは必要なかった。しかし、フランス人にとっては大切なソーシャルコミュニケーション手段。
タッチには、人間にとって複数の利点がある。特定の生理学的および生物学的メカニズムを活性化することにより、私たちは感情的な幸福を調節および改善することができまる。タッチは、心地よく、安心し、落ち着き、ストレスを解消する。また、他者との絆を深めるのに役立つ。
多くの研究では、身体的相互作用の長期にわたる欠如が人々の精神的および身体的幸福にマイナスの影響を与えることがわかっている。
Skin hunger(皮膚の空腹)は、必要なだけのタッチが得られていないことに気づいたときに発生し、ストレスと不幸の感覚を感じ、身体的および精神的健康に悪影響を及ぼすといわれている。接触の欠如は、うつ病、個人的な不満、孤独感、ストレス、そして一般的には健康問題を経験する可能性を高め、感情的および不安は免疫システムに直接影響を及ぼし身体の自然な防御を弱め、精神的および肉体的な病気の悪循環を作り出す。
パンデミック前でさえ、社会は人間関係と孤独の危機だった。Our World in Dataでは、単身世帯の有病率が記録的なレベルであることを発表していた。ここでは新たな支援が必要になることを喚起していた。そんな中でのパンデミックのタッチレス社会で、この状況をますます悪化させた。

https://ourworldindata.org/living-alone
精神的健康に対するタッチ剥奪の影響は、新しいタッチソリューションを模索する動きが始まっている。
感情的タッチ(感情的要素を伴うタッチ)は人のストレスと不安を軽減し、ポジティブな気分を高め、社会的な絆を刺激するホルモンであるオキシトシンがでる。
欧米では、SNSでも「#hug-curtain」で、プラスチック製の材料で作った防護服を着てハグする写真を発信している。
老人ホームでも息子と抱き合うことのできるカーテンを用意するなど、パンデミックの中でも接触を可能にすることを工夫している。なんとかして接触する方法を探している。人と人が接触することの比重が高いのだと思う。

https://www.cnbc.com/2020/07/02/cuddle-curtains-are-going-global-amid-the-coronavirus-pandemic.html
今年開催されたヴァーチャルデザインフェスティバルに出ていたルーシーマクレーの作品で「Solitary Survival Raft」は、クッションが人を優しく包み込むように収縮することができ、人に抱かれている感覚を複製する。
他にも、爪のに取り付けることで、仮想空間内のオブジェクトと人々の「感覚」を人工的に再現し、ユーザーがデジタルでタッチできるようにする触覚インターフェースの開発なども加速している。

https://www.dezeen.com/2020/07/09/lucy-mcraes-solitary-survival-raft-fear-hope-coronavirus-pandemic/
孤独感が高齢者の認知症やアルツハイマー病のリスクに直接関連しているともいわれている。感情の状態を測定する研究も進化していて、誰もが心理的な健康も測定できるようになる時代も近い。
ブラジルの建築家グトレケナとビジュアルアートスタジオMediadubは、ユーザーの「ハートビート」を収集して愛する人に送るアプリ、「Heartbits」を制作。ダウンロードして使うことができる。
また、「Sentero」というスマートリストバンドデバイス(プロトタイプ)は、離れた場所にいるユーザーが家族、友人、パートナーを「感知」できる。携帯電話アプリに接続されたセンサーは、着用者が自分の方向を向くと、振動する。また、心拍数を再現して共有する感覚入力を受け取ることもできる。接触している感覚を味わうことができる。

https://www.indiegogo.com/projects/sentero-feel-the-world-without-a-screen#/
パンデミックの発生により、多くの問題と向き合うことにとなり、新たな方法を世界中で模索している。その中で、タッチレス、「接触することができない。」時代に、改めて接触することの大切さを知った。
アフターコロナでも、一人っこや一人世帯、高齢化、、バーチャル化が加速する中で、接触している感覚を味わう研究はますます重要になり、人はタッチレスを克服するのだろうか。